最近特に仙台ネタの多いレイクラフトコラムですが、今回もまた仙台ネタです。
今回ご紹介するのは、まさにあの時、津波にのまれて潮水に浸かってしまい、もはや絶望かと思われていたDUCATI 749Rの復活のお話しです。
その日、749Rはオーナーのトランポの中にいました。場所は仙台港近く。そしてあの津波が襲ってきました。
オーナーの会社の敷地に駐車してあったトランポは、建物の最上階に避難していたオーナーの目の前で押し寄せる波にのまれ、なすすべも無く流されていくところでした。 ところが、他の車が敷地の外に次々に流されていく中そのトランポだけが運良く建物にひっかかって向きを変えオーナーのいる建物のほうに押し戻されて来たのだそうです。 きっとオーナーの強い気持ちが見えないロープを手繰り寄せたに違いありません。
こうして、奇跡的に流されずにすんだ749Rでしたが、タンク下まで潮が来ていました。
エンジンはホリゾンタル側が浸水、 スロットルボディも浸水、ハーネスはもちろんのこと、フルコンのネメシスも基板まで潮がしみていました。 DUCATIはECUの取り付け位置が下回りにあるので致し方ありません。 ダッシュメーターが無事だったのがせめてもの救いでした。
というのも、この”FALCON”ダッシュは、今は無きDIGITEK*ブランドの名作ともいえるダッシュメーターで、2000年代前半に749Rがワールド・スーパースポーツにワークスで参戦していた当時搭載されていた逸品ですので、時代考証もバッチリな組み合わせです。 ちなみに当時ワールド・スーパーバイクの999Rワークス車両にもこのダッシュが使われていました。 *(DIGITEKは数年前MTAというイタリアの大手電装メーカーに吸収され、残念ながらそのブランドネームはなくなってしまいましたが、FALCONダッシュそのものは、ブランドのネームプレートがMTAに変わっただけで現在でも入手可能です。)
ダメージは物心共に相当のものだったと思われますが、震災の数ヵ月後、「オーナーは”直したい”と言ってます」との連絡をフクダテクニカさんより受けました。 驚いたと同時にとても嬉しかったのを覚えています。 さっそくレイクラフトでは電装まわりの”再生”計画を練りました。
たまたまですが、実はスロットルボディマニアのわがレイクラフト主任技師がなぜか749Rのスロットルボディを所有しており、さっそくこの再生計画に使おうということが決まりました。
ECUはこの機会に、レイクラフト一押しのM232Rを投入。 これまで使っていたネメシスはプラグインでそれはそれでよかったのですが、M232Rにすると、フィードバック・コントロール、ローンチ・コントロール、トラクション・コントロール、ピットロード・リミッターなどなどいろいろな制御機能があるので、サーキット走行用に仕立ててあるこの車両にはさらに戦闘力アップになるはずです。
エンジンのほうは、潮で一部腐食してしまったところなどもあり再生は大仕事だったようでしたが、こちらもフクダテクニカさんの念入りなオーバーホールで見事に復活!
FALCONダッシュの設定も確認して...
ダッシュの下の黄色いディスプレイは、MicrotecのM163 2チャンネルラムダアンプです。 このラムダアンプからCANで出力されるA/Fのデータを元に、M232Rが燃料のフィードバック・コントロールを行っています。
最後に、スターレーンのパワーシフトも取り付けて、レイクラフト的には”全部入り”のフルスペックになりました。
下の画像で、ECU本体にちょこんとフジツボのように張り付いている黒い小箱がパワーシフトの本体です。
ダッシュの上にのっている赤い小箱は2Dのラップタイムレシーバです。
待望のシェイクダウンは4月のフクダテクニカ走行会の予定。
あの時から一年、ここにも小さな復興が実現しました。しかしオーナーさんにとっては大きな復興です。
この一年、何度も仙台に行って仕事をさせていただきましたが、そのたびに感じたのは”がんばらなくては”という前向きな気持ちです。そして、その前向きな気持ちが目指しているものは、決して大それた事ではなく、以前の”日常”を取り戻したいという至極あたりまえのこと・・・
大好きなバイクに乗る楽しみを取り戻すことが、日常を取り戻すワンステップになったのなら本当に嬉しい限りです。