今日も仙台のフクダテクニカさんにお邪魔している。
今回はカワサキGPZ250Rの話題。
フクダテクニカさんのGPZ250Rといえば昨年のもて耐で、ライダー3人全員がリッターあたり20Kmという驚異的な燃費をたたき出し、1タンクあたりの周回数で他の追従を許さず、このまま行ったら優勝かと思われたところで、チェッカーを待たずにエンジントラブルでリタイアとなってしまった伝説(?)のマシンである。
ベース車両は通称”ハトサブレ”と呼ばれる25年前のカワサキGPZ250Rを、何とインジェクション化してしまったという超珍獣で、ちょっと錆も見えるフレームに何ともいえないレトロ感を漂わせつつ実は”走るとスゴイんです”というまさに羊の皮をかぶった猛禽類のハトなのだ。
で、今回はどんな楽しいことをするかというと、耐久ではなくスプリント仕様に。 昨年耐久の時にはマイクロテック社のM180という汎用ECUを搭載していたが、今年同社からカワサキNinja250R用のプラグインECUが発売となったので、このハトサブレにそのECUを搭載し、バリバリのスプリント仕様にしようというプラン。
黒いフレームの車体にライムグリーンのECUユニットが妙にマッチして美しい。
ハーネスはノーマルだが昨年M180用にECUのコネクタ部分を改造していたため、きょうはまずその部分の手直しから。 M180からM232_KWのピン配置にケーブルを1本1本確認しながらつなぎ替え。 あとは、車両にハーネスを戻していざ火入れ!
いつもながら全く不安無くエンジン始動。
歴史を感じさせる車両に最新のECUのコラボ。 こういう楽しいことが出来るのがカスタムの魅力ですね。 たまりません。 フクダテクニカさんの柔軟でチャレンジングなカスタムのアイディアに脱帽です。
今日の作業はここまで。 明日燃料のセットアップをしてどこまで爪を研ぐことが出来るか乞うご期待!!!
時間が前後してしまうが、8月上旬のツインリンクもてぎでライディングスポーツ誌の青木編集長にマイクロテック社のM232_KWを体験していただく機会に恵まれた。
M232_KWは以前こちらのコラムでもご紹介したカワサキNinja250R専用のプラグインECUだ。
ご存知の方も多いと思うが青木編集長はもて耐にNinja250Rで参戦されており、今回のこの走行はそのもて耐の直前ということで、特に燃費の改善にスポットを当てたECUセッティングを体験していただいた。
この走行のときに取り付けたデバイスは、ECUがマイクロテックのM232_KW、ラムダアンプは同じくマイクロテックのM163、データロガーは2Dのメモリモジュール。 車速とバンキングのデータを取るために2DのGPSも取り付けた。
画像左上のグリーンの箱がM232_KW、その下の液晶ディスプレイの付いた黄色い箱がM163ラムダアンプ、右側の赤い長方形の箱が2Dのメモリモジュール、赤い正方形の箱はGPS、その下の黒いのがGPSのアンテナ。
1本目の走行はスプリントレース用のパワーベストのマップで走行してもらい、現状の燃費を確認。
2本目の走行では、減速時の燃料カットなど燃費を改善する燃料セットに変えて、燃料消費量の変化をデータロガーで確認。
M232_KWは、燃料消費量のデータをCANで吐き出すのでそれをロガーで計測して1ラップごとの燃料消費量や、1ラップ中のどの区間でどれだけ燃料を消費しているかを確認できる。
結果は、ラップライムもほとんど変わらず、また、ストレートのスピードもほとんど落ちることなく、燃費は20%近く改善した。
もて耐では、改めて言うまでもなく燃費管理は非常に重要で、燃費を18~20Km/Lにすることが出来ればピットインを1回減らすことが出来る。これは大きなアドバンテージとなる。
この青木編集長のプラグインECU体験記は9月24日発売のライディングスポーツ誌に掲載されているので興味のある方は是非ご一読を!
蛇足になるが、このコラムのタイトルの”あっ!青木”は青木編集長のツナギの背中のパッチロゴで私はとても気に入っている。青木編集長のツナギ姿を見るチャンスがあれば要チェックです!
今日は仙台のフクダテクニカさんにおじゃましている。
今日の御題はM197の取り付け。
M197はマイクロテック社製のプラグインECUの中でも草分け的かつベストセラーのECUユニットで、DUCATIのいわゆる59M系ECUの置き換えで取付できるECUだ。(レイクラフトではこれまで主にNEMESISを販売してきたが、昨年秋より、NEMESISの開発製造元だったマイクロテック社より直接M197を輸入販売している。)
話を元に戻すが、今回M197を取り付ける車両がなかなかの、言い換えればかなり手ごわい相手だ。
車両のオーナーはユニークな方らしく、996Rの車体に1098のエンジンを載せ、ハーネスとメーターは999というチャレンジングな組み合わせ。
エンジンのマウントからハーネスの取り回しもすべてオーナー氏がご自分で作業されているとのことで、ちょっと驚き。
M197を取り付けたいとのご依頼を頂いた当初は、魔界に引き込まれてしまいはしないかとチョッと及び腰になったのだが、今日フクダテクニカ社長の福田さんと車両の状態を確認しながらM197を取り付け、早速エンジン始動。
魔界へという心配は杞憂に終わった。エンジンは素直に始動。始動性もかなりいい。
シャシーローラにかけてエンジンセッティング。
シャシーローラのデータを見て、エンジン回転とスロットル開度のマップで燃料を何度か補正。
結果的に今日はセッティング前に比べ,プラス5馬力、空燃比の波形もきれいになった。
初回のセッティングとしては上出来では?
取り付け・セットアップに1時間、シャシーローラでのセッティングに2時間、しめて作業時間は延べ3時間程度で完了。
定番のセリフだが、ホントにプラグインECUはインストールが手軽だ。
ところで、仙台のフクダテクニカさんは、ドゥカティのサービスショップで、アプリリア、MVアグスタ、ビモータの正規ディーラでもあり、東北地方はもちろんのこと関西方面からのお客様も来られる。
国産車はもとより、外車のヘビーなカスタムも信頼して任せられるカスタムショップだ。
レイクラフトで取り扱っている汎用ECUやデータロガーなどの電装部品も積極的に取り扱っていただいている。
フクダテクニカさんのサイトはこちら↓
カスタムダイアリー的なブログもかなり楽しい。
8時間の長い戦いが終わった。 結果は4位。 この結果をどう捉えるかはひとそれぞれだろう。
昨年、表彰台圏内を快走しながら最後の最後でスローパンクチャーにより順位を5位に落としたプロトにとっては表彰台は手の届きそうで届かないpipe dreamに終わった。 それだけに今年も一時、表彰台圏内を走行していたときには、もしかしてという気持ちがなかったといったら嘘になる。
しかしここまでの経過を冷静に振り返ったとき、この結果は決して不運でも、また悲観することもない非常に上出来な内容だったと思う。
まず、上位3台の顔ぶれを見てみよう。1位ハルク・プロ、2位ケイヒン・コハラレーシング、3位TSRと、いずれもホンダ、それもワークス仕様の車両を使用していたチームだ。 そして優勝候補の筆頭であったヨシムラをも凌いでPLOTはスズキ勢でトップの4位。 これは特筆すべきことだ。
次に周回数を見てみよう。 トップのハルク・プロは215周、2位が214周、3位が213周、そして4位のPLOTは212周でトップからわずか3周遅れ、3位のTSRともタイムで1分50秒ほどしか差がない。 レース中の各チームのベストタイムや、タイムベースを考慮したとき、思いのほか上位とのギャップが少ないことに驚かれる方も多いのではないだろうか。 耐久がいかに”Running Strong”が大切かが分かる非常に良い例だといえる。 しかも今年のレースは、一度もペースカーが入ることもなく、また赤旗が出ることもない、非常に淡々としたレースで、だからこそこの結果はトリックのない純然たる実力の結果と思って良い。
さらに、今年は非常にコンディションが厳しかった。 レースウィーク中は連日35℃を上回る猛暑、レース当日も同様で、路面温度も60℃を超えた。 ライダーにとっては体力的に非常に厳しい状況だった。 そして、PLOTのライダーは出口選手も安田選手も怪我が完全に治ってはおらず、この厳しいコンディションの中でその点がボディブローのように時間の経過と共にライダーを苦しめることになった。
しかしこの点も、見方を変えれば、300Kmで二人とも負傷し、その後のテストもままならない時期があったことを考えればここまで来れたのはある意味幸運、そして、消耗しきった二人を最後に救ったのが第3ライダーの若い児玉選手だったという点もPLOTに運があった証拠だと思う。
そして、この結果を支えたのが、PLOTのチームスタッフの働きだ。
8耐でのチームスタッフはPLOTの開発センターの若手社員で構成されている。 常時レースを担当しているメカニック2人を除いては、皆、8耐の時だけ召集されるメンバーなのだが、彼らはプライベートチームとは思えないすばらしい活躍ぶりで、ピットワークをはじめとした耐久に必要な作業をキッチリこなす、素晴らしいスタッフだ。 私たちとリンクする部分について言うと、給油時の燃料の計量、残量チェックは非常に正確で、燃費を管理する上で非常に信頼のおける体制になっている。
振り返って私たちレイクラフトの働きはどうだっただろうか。
実は私たちには残念だった点があった。 それは想定タイムの見積りより実際のラップタイムが遅く、結果的に燃料消費量が想定よりも少なくなってしまった。 これはつまり、もう少し1周あたりの燃料を増やすことが出来たということで、あれほど数cc単位で燃料を絞っていたのも徒労に終わってしまったし、想定タイムの精度と燃料消費量とのバランスを見極めることの重要性が課題となった。 レースタイムを想定したロングランが出来ていなかったことも悔やまれる。
8耐はいつもいろいろな収穫も課題も与えてくれる。
普段の生活の中で、これほどの長い緊張感と興奮と充実感と時には落胆を与えてくれるものがあるだろうか?
スプリントのレースも好きだが耐久にはまた格別の高揚感がある。
最後に、PLOTのGSX-Rには特別な部品が投入されているなどと、まことしやかな噂を耳に挟んだが、ここで完全否定しておきたい。 車両を見れば一目瞭然だが、スイングアームもリンクもすべてオリジナルだ。
まさに満身創痍のPLOTチーム。 しかし、ひるまず淡々とテストをこなしてゆかなくてはならない。 そしてそのためには車両2台を作り直さなければならない。 8耐レースまでに事前テストは3回。
とりあえず私たちの作業は、ハーネスを再度新設。 事前テストまでに何とか2台分準備できた。
1回目の事前テスト(6月30日、7月1日)は、1日目が70分2本と夜間走行45分、2日目が60分3本という超ハードスケジュール。 今回のテストでのレイクラフトの重要なテスト項目のひとつは、ECUでの演算上の燃料消費量と実際の燃料消費量の校正を行うこと。
前回のコラムでも紹介したように、マレリのECUに限らず、多くの汎用ECUはインジェクタの吐出容量をもとに演算で燃料消費量を算出できる。が、実際その値は、ハード側の加工上の精度や、インジェクタ開閉時の慣性の影響で理論上の値と実際の値には何がしかの誤差が生じてくる。 これを、何回か実際の燃料消費量と理論上の消費量の値を比較し、修正係数を決める必要がある。
この修正係数の精度が上がれば、データ上の燃料消費量を正として、その後の燃料消費量の調整をする上で非常に有効だ。
今回の事前テストでは、ライダー二人ともまだ怪我が完治しておらず、連続しての走行は難しい。 限られた走行データをもとに実消費量との校正を進めてゆく。
実際の燃料使用量の計量も非常に重要だ。 メカニックは燃料の給油時の計量、残ガスの計量にも細心の注意を払い行っている。 PLOTチームのメカニックは仕事キッチリでその精度は非常に高い。 忙しい作業の中で、計量などは疎かになりがちだが、こういった緻密な積み重ねがあってこそ結果に結びついてゆくと信じたい。
2回目の事前テスト(7月7・8日)では、第3ライダーとして児玉勇太選手も合流。 怪我が癒えない二人のライダーに替わりロングランなどのテストをこなす事になった。
前回の事前テストで燃料の修正係数がほぼ確定したため、今回のテストからは、いよいよ燃料消費量を削るための調整を始める。
ドライバビリティへの影響を最小限に抑えながら燃料をいかに削るか・・・ 耐久のエンジンセッティングの永遠の命題だ。
最も初歩的かつ誰もが最初に考える燃料削減の手法は全開を削る方法だろう。 確かにスロットルが最も開いている部分を削れば燃料を削れると思うのももっともだが、実はその部分を削るのはあまり得策ではない。
なぜだろう。 まず第一に全開部分は実は、空燃比のデータを知っている人にはわかると思うが、燃料はそれほど濃くない。 逆にここを削ってしまうと、”走り”に明らかに影響が出てしまう。 では、次に思い浮かぶのは”過渡”? 過渡の部分は確かに開度の割りに燃料の使用量は多い。 しかしここを削るのはさらに得策ではない。 過渡を削るとドライバビリティに顕著に悪影響が出る。 S字が登らなくなるのは鈴鹿では致命的だ。
そこで私たちが着目するのは実は”減速”。 GSX-R1000では、エンブレの影響を軽減するため減速でもスロットルは全閉にはならず数パーセント微開している。 意外に思われる方も多いと思うが、燃料消費量のデータを見ると、実はこの減速区間で消費している燃料が思いのほか多い。 削るべきはここだ。
マレリのECUでは、燃料のフルカットのほかに気筒別のカットも可能。さらにギア毎のカット条件の変更も出来る。 また、燃料カットをする場合、重要なのはカット要件だけでなくカットからの復帰も非常に重要なファクターとなる。 せっかく減速区間で燃料カットしても、復帰時にショックが大きければ、駆動開始のタイミングにも影響するし、ひいては車体の挙動にも影響しかねない。 今回のテストではこの部分を細かに調整しながら燃料使用量の調整を進めた。 もちろん児玉選手のロングランのデータも非常に貴重なデータとなったことは言うまでもない。
3回目でかつ8耐前最後の事前テストとなる7月14日はあいにくの雨模様となった。 雨の燃費データも是非欲しいデータではあるのだが、データを取るにはあまりにも強烈過ぎる大雨となってしまった。
それでも、自称”雨は苦手”の安田選手が率先して豪雨の中をロングラン走行したのには頭が下がった。
余談になるが、ホンダ出身のライダーは押しなべて”しつけ”が良い気がする。 エンジンを掛けるときには必ずギアを入れてから掛ける。 ミッションをいたわる行動だ。 また彼らは 鈴鹿を走行する場合、余程のことがない限りショートカットはしない。 おそらく燃費計算を考慮した対応なのだろう。 止むを得ずショートカットした際は走行後、自己申告してきた。 チョッと驚いた。
あっという間に3回の事前テストは終了した。 しかし燃費データに関してはまだ十分ではなかった。 肝心の出口選手のロングランのデータがない。 後はレースウィークで何とかするしかない。
まだまだ綱渡りの状況は続く。