まさに満身創痍のPLOTチーム。 しかし、ひるまず淡々とテストをこなしてゆかなくてはならない。 そしてそのためには車両2台を作り直さなければならない。 8耐レースまでに事前テストは3回。
とりあえず私たちの作業は、ハーネスを再度新設。 事前テストまでに何とか2台分準備できた。
1回目の事前テスト(6月30日、7月1日)は、1日目が70分2本と夜間走行45分、2日目が60分3本という超ハードスケジュール。 今回のテストでのレイクラフトの重要なテスト項目のひとつは、ECUでの演算上の燃料消費量と実際の燃料消費量の校正を行うこと。
前回のコラムでも紹介したように、マレリのECUに限らず、多くの汎用ECUはインジェクタの吐出容量をもとに演算で燃料消費量を算出できる。が、実際その値は、ハード側の加工上の精度や、インジェクタ開閉時の慣性の影響で理論上の値と実際の値には何がしかの誤差が生じてくる。 これを、何回か実際の燃料消費量と理論上の消費量の値を比較し、修正係数を決める必要がある。
この修正係数の精度が上がれば、データ上の燃料消費量を正として、その後の燃料消費量の調整をする上で非常に有効だ。
今回の事前テストでは、ライダー二人ともまだ怪我が完治しておらず、連続しての走行は難しい。 限られた走行データをもとに実消費量との校正を進めてゆく。
実際の燃料使用量の計量も非常に重要だ。 メカニックは燃料の給油時の計量、残ガスの計量にも細心の注意を払い行っている。 PLOTチームのメカニックは仕事キッチリでその精度は非常に高い。 忙しい作業の中で、計量などは疎かになりがちだが、こういった緻密な積み重ねがあってこそ結果に結びついてゆくと信じたい。
2回目の事前テスト(7月7・8日)では、第3ライダーとして児玉勇太選手も合流。 怪我が癒えない二人のライダーに替わりロングランなどのテストをこなす事になった。
前回の事前テストで燃料の修正係数がほぼ確定したため、今回のテストからは、いよいよ燃料消費量を削るための調整を始める。
ドライバビリティへの影響を最小限に抑えながら燃料をいかに削るか・・・ 耐久のエンジンセッティングの永遠の命題だ。
最も初歩的かつ誰もが最初に考える燃料削減の手法は全開を削る方法だろう。 確かにスロットルが最も開いている部分を削れば燃料を削れると思うのももっともだが、実はその部分を削るのはあまり得策ではない。
なぜだろう。 まず第一に全開部分は実は、空燃比のデータを知っている人にはわかると思うが、燃料はそれほど濃くない。 逆にここを削ってしまうと、”走り”に明らかに影響が出てしまう。 では、次に思い浮かぶのは”過渡”? 過渡の部分は確かに開度の割りに燃料の使用量は多い。 しかしここを削るのはさらに得策ではない。 過渡を削るとドライバビリティに顕著に悪影響が出る。 S字が登らなくなるのは鈴鹿では致命的だ。
そこで私たちが着目するのは実は”減速”。 GSX-R1000では、エンブレの影響を軽減するため減速でもスロットルは全閉にはならず数パーセント微開している。 意外に思われる方も多いと思うが、燃料消費量のデータを見ると、実はこの減速区間で消費している燃料が思いのほか多い。 削るべきはここだ。
マレリのECUでは、燃料のフルカットのほかに気筒別のカットも可能。さらにギア毎のカット条件の変更も出来る。 また、燃料カットをする場合、重要なのはカット要件だけでなくカットからの復帰も非常に重要なファクターとなる。 せっかく減速区間で燃料カットしても、復帰時にショックが大きければ、駆動開始のタイミングにも影響するし、ひいては車体の挙動にも影響しかねない。 今回のテストではこの部分を細かに調整しながら燃料使用量の調整を進めた。 もちろん児玉選手のロングランのデータも非常に貴重なデータとなったことは言うまでもない。
3回目でかつ8耐前最後の事前テストとなる7月14日はあいにくの雨模様となった。 雨の燃費データも是非欲しいデータではあるのだが、データを取るにはあまりにも強烈過ぎる大雨となってしまった。
それでも、自称”雨は苦手”の安田選手が率先して豪雨の中をロングラン走行したのには頭が下がった。
余談になるが、ホンダ出身のライダーは押しなべて”しつけ”が良い気がする。 エンジンを掛けるときには必ずギアを入れてから掛ける。 ミッションをいたわる行動だ。 また彼らは 鈴鹿を走行する場合、余程のことがない限りショートカットはしない。 おそらく燃費計算を考慮した対応なのだろう。 止むを得ずショートカットした際は走行後、自己申告してきた。 チョッと驚いた。
あっという間に3回の事前テストは終了した。 しかし燃費データに関してはまだ十分ではなかった。 肝心の出口選手のロングランのデータがない。 後はレースウィークで何とかするしかない。
まだまだ綱渡りの状況は続く。