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2015年8月19日

2015 鈴鹿8耐レビュー その4<Team KAGAYAMAの戦い~決戦は日曜日編>

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準備は整いましたと言った先からいろいろな不安が頭をよぎります。

TOP10トライアルで驚異的な2分6秒0をたたき出したヤマハの#21は、いったいどんな想定タイムでどんな作戦に出てくるのか?

前年の覇者#634 ハルクプロはストーナーを擁してどんな戦いを展開するのか?

8耐の勇#12 ヨシムラはきっと万全の体制で臨んでくるに違いないのではないか?

外人ライダー3人組で圧倒的なフィジカルを生かし#778のTSRもきっと上位を狙ってくるだろう・・・

天候はどうだろうか? 雨は降るのか?
とりあえず天気予報は熱中症の注意報が出るほどの快晴で、路面温度もおそらくピーク時には60℃を軽く超えてしまうでしょう。

心配は尽きませんが決勝の時間は刻一刻と迫ってきます。

朝のフリー走行では3人ともレースを想定した走りでタイムと燃費のバランスは完璧です。

スタートライダーは清成選手が担当します。

ここで私たちの心配事は、エンジンがちゃんと掛かるかどうか・・・ 始動性は本当に難しいセッティングです。

start_50

カウントダウンのあといよいよスタート!
ホールショットはなんと清成!
思わず小さくガッツポーズしてしまいました。

振り返ると、2014年のSUGOのセミ耐久、2014年の鈴鹿8耐、2015年のSUGOのセミ耐久、そしてこの2015年の鈴鹿8耐と、ルマン式スタートだけでいえば、TeamKAGAYAMAは毎回ホールショットを取っています。 ライダーのスタートが上手なのはもちろんのことですが、始動性が悪くないことの証明にはなっていると思うので担当のレイクラフトとしてはちょっと自慢です。

事実、ポールポジションの#21 Yamaha Factory Racing の中須賀選手はエンジンがかからず20秒ほどロスしてしまいました。
ファクトリーでも始動性は難しいのです。

1スティント目の清成選手は、初めの数周は2分11秒台、その後ペースをつかんでからは2分10秒台で着実にラップを重ねます。15周目あたりからバックマーカーが出てくるためアベレージのラップタイムは若干落ちますが、ペースは安定してポジションを7⇒6⇒5と上げてきます。

ここで少し気になったのが、トップグループのラップタイムです。上位の#12ヨシムラ、#634 ハルクプロ、#778 TSR、#21 YAMAHAは初めの10周程度は2分9秒台ですが、その後は2分10秒台になることも多く、予想よりはアベレージタイムが速くありません。
作戦なのか、思いのほか高くなった路面温度のために、ブリヂストンタイヤとはいってもペースが上げにくいのか・・・

25周目には#12 ヨシムラと#634 ハルクプロが早くもピットイン、続いて26周目に#778 TSR、#87 チームグリーンがピットイン、Team KAGAYAMAもピットインのサインを出していましたが、清成は頭を横に振り走行を続けます。27周目になってもまだピットインする気配がありません。

28周目ついに#21のYAMAHAがピットイン。 しかし清成はまだ走り続け、Team KAGAYAMAのピット内もざわつきます。
燃料は大丈夫なのか? ピットクルーも今か今かと待機が続きます。

pit-work_40
そして29周目にようやくピットイン。 上位の中では一番周回を多く走りました。このやや無謀とも思える彼の判断があとあと大きなアドバンテージとなってくることはこの時にはまだ予想できませんでした。

そして2スティント目は加賀山選手が走ります。清成選手から加賀山選手に交代する時点ではポジションは1位でしたが、ピット作業を終えてコースに戻った時点ではポジションは6位です。そしてその2周後、ヘアピン手前でのストーナー選手の驚愕のクラッシュが起こります。
このクラッシュでセィフティーカー(SC)が入り#17 Team KAGAYAMAはSCの2ndグループに入ることになります。上位チームは1stグループですからここで否応なく半周分の差がついてしまいます。セィフティーカー解除の後1台パスして4位にポジションを上げますがこの時点でトップグループと1分以上の差がついてしまいました。

さらにその数周後、加賀山選手はシケインで痛恨の転倒を喫してしまいます。逃げ足の速さに定評のある加賀山選手ですが、車両のダメージを最小限に抑えようとして自分の体を車体と路面の間に挟みながらマシンをかばっていたという後日談を聴いたときにはちょっと泣けましたがここで20数秒ロスしてしまいます。

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ところが、ここでまた別のクラッシュがあり、2回目のSCが入ります。シケインでの転倒で一時ポジションを7位に落としましたがこのSC解除後にポジションを6位に戻すことが出来ました。 しかし、トップとの1分以上の差はまだ依然として残っていました。

ここからが加賀山選手の本領発揮です。
SCの数周後から#12 ヨシムラ、#778 TSR、#21 YAMAHAなどが次々に2回目のピットインとなりましたが、加賀山選手はダッシュメーターの残り周回数の表示や警告ランプ、ガス欠症状に気を付けながらピットサインに頭を横に振り続け、ポジションを4位まで上げて、なんと予定周回数をはるかに上回る31周を走り切ってピットインしました。

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このあたりから私たち作戦チームは6回ピットの可能性を探るべくシミュレーションを始めました。

上位チームのアベレージタイムが想定より遅いことと、SCがこの時点ですでに2回も入っていて残りの走行時間と周回数を考えると、この後の各チームのアベレージタイムとSCの入り具合によっては6回の可能性が高まってきます。

続く3スティント目は芳賀選手が着実に周回を重ね、4位のポジションをキープ。途中SCが6周入ったので周回数も1周多く走行してもらい4スティント目の清成選手につなぎます。

1スティント目で燃費が想定よりさらに良かった清成選手にはここで6回ピットの可能性も想定して周回数を予定より数周多く走行してもらう作戦に変えました。このスティントあたりでは気温も路面温度もピークに近い状況となり、周回数の多い走行はライダーには大変つらいものとなりますが、心を鬼にして作戦決行です。 ここでの周回数の貯金があとあと大きなアドバンテージとなることは耐久のセオリーです。

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そしてこのスティントでは3周のSCが2回も入り、さらにその2回目のSCの解除直後にトップを走行していた#12 ヨシムラがピットイン。このタイミングで車体の破損を修復するのですがこれに思いのほか時間がかかりこの間に#17 Team KAGAYAMAはポジションを3位に上げます。

続く加賀山選手、清成選手は3位をキープしたままそれぞれ予定の周回数を着実にこなします。次の芳賀選手への交代が6回目のピットインで予定ではこれが最後のピットインとなります。午後6時31分に最後のライダー交代を無事に終えて芳賀選手が最後のスティントを走行します。

芳賀選手は実は夜目が利くのです。SBKではナイトセッションのレースはないのでそのことを知る人は少ないと思いますし、私たちも知らなかったのですが、レースウィークのナイトプラクティスでも、一番周回数を重ねていたのは芳賀選手でした。このスティントを自分が走ることになるのを予想していたのでしょうか?

あとは前後を走行するチームがあともう1回ピットインするのかしないのか、それまでのピットタイミングから推定して自分たちのチームのポジションが確実にキープできるかどうかを見極めます。

2位を走行する#778 TSRとは1周以上の差がついているのでこのスティントで追いつくのは難しい状況です。4位を走行する#30のSERTと5位の#94 GMT YAMAHAは最後残り数周のところでもう1回ピットインする必要があると見たので追いついてくる可能性はほぼゼロです。

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そしてついにチェッカー! トップから1周遅れの203周を走り切り見事3年連続3位表彰台を獲得しました。
2014年もそうでしたが嬉しいよりはほっとした気持ちと、悔しい気持ちが入りまじり複雑な心境でした。

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完全なドライの状況でダンロップタイヤで3位を獲得できたことは本当に素晴らしい結果だと思います。
また、SCが6回も入ったとはいえ、6回ピット作戦も達成できました。

耐久レースが好きで、燃費管理やピット作戦を自分のライフワークと思っている私としては、これまで何度もプランを立てては達成できなかった6回ピット作戦が思わぬところで達成できて満足なのも事実ですが、終わってみるとああこんなものなのかという気もするし、初めから気合を入れて「6回ピットやるぞー!」という感じでなく、途中から状況の変化に応じて作戦変更した結果が6回ピット成功につながったというのは何とも不思議な感覚です。

そして、この6回ピット作戦が成功した裏には、ライダーの劇的なライディングスタイルの変更や、ピットクルーの正確で確実なピット作業、それら全体をオーガナイズするチーム監督、副監督の采配、タンクやポンプ等のしっかりした管理、燃料給油担当の正確な計量と給油、私たちレイクラフトと一緒に作戦チームで活躍してくれた、かつてレイクラフトで仕事をしていて今はSuzuki MotoGPチームでエンジンマネージメントを担当しているシマフクロウ君、そしてレイクラフト主任技師の地道な燃料マップの作りこみがあってこそのものだと思います。

ただ、このコラムの視点はあくまでレイクラフト目線であり、チームが3位を勝ち取るに至るプロセスにはここに書いた内容をはるかに上回る、多くのスタッフの皆さんのそれぞれの担当分野での活躍があっての結果であり、その詳しい内容については、ぜひTeam KAGAYAMAのウェブサイトでじっくり感動を味わっていただければと思います。

http://team-kagayama.com/news/20150727-1/

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