フェイスブックページでも速報で今年のもてぎGPへのmoto2ワイルドカード参戦サポートの様子をお伝えしましたが、こちらのコラムではレイクラフト目線での参戦サポートを振り返っての雑感をお伝えしたいと思います。
まず、moto2ワイルドカード参戦の概要ですが、今シーズン全日本ロードレース選手権のJ-GP2クラスにTeamKAGAYAMAから参戦している浦本修充選手は第8戦の岡山大会終了時点で、ランキング2位の関口太郎選手に22.7ポイント差で現在ポイントリーダーとなっています。
ただ、浦本選手がJ-GP2で使用している車両はスズキ車で、ホンダエンジンを搭載することがレギュレーションで規定されているmoto2クラスに参戦することは難しく、これまでもホンダ車以外を使用しているライダーのワイルドカード参戦には壁がありました。そこで、チーム監督の加賀山就臣氏がメーカーやチームの枠を超えてJ-GP2クラスの他チーム等に支援・賛同を呼びかけ、車両もKALEX車を準備し「Japan-GP2」というチームでJ-GP2クラスを代表する形で参戦が実現したものです。
参戦の経緯やレースの詳細はいろいろなサイトやメディアでレポートされているので、さらに詳しい情報はそちらでご覧頂くとして、ここからはレイクラフト目線のmoto2ワイルドカード参戦サポートのレポートを進めたいと思います。
1.車両
今回TeamKAGAYAMAを母体とするチームJapan-GP2が準備した車両はmoto2で圧倒的なシェアを誇るKALEXというコンストラクタの車両です。この車両にmoto2で規定されているホンダ製エンジンを搭載してレースすることになります。
moto2のレギュレーションでは、エンジンがホンダ製ワンメイク、データロガーの使用も2D製に限られ、ワイルドカード参戦のチームにはレースウィークの木曜日朝に主催者からエンジンやECU,データロガー、トランスポンダが供給されるという仕組みになっています。ですから、ワイルドカード参戦チームは文字通りぶっつけ本番の勝負になります。
幸いなことに、チームJapan-GP2で用意したKALEX車両は、以前にmoto2やスペイン選手権に参戦していた車両で、moto2のレギュレーション通りの仕様であったため、私たちレイクラフトで請け負う電装系の部分についてはECUはもとより、データロガーやハーネス、付属の電装部品もほとんど揃っている状態でしたので大変助かりましたし、事前に行った2回のテスト走行時にほとんどの電装系部品の作動確認を行うことが出来ました。これは「段取り八分」のレースの電気屋の仕事的には大変アドバンテージのある事でした。
唯一の懸念点は初めて使用するmoto2専用のトランスポンダ X2を間違いなく取付・作動できるかどうかという点でしたがこれも支給されたレースウィークの木曜日にIRTA*1の担当者から詳しく説明を聞くこともできたので問題なくクリアできました。
2.レースの運営
私たちレイクラフトのGP関係サポートは、1999年のもてぎGPでのGP125クラスワイルドカード参戦の中村実選手(決勝10位)、2003年の鈴鹿GPでのMotoGPクラス参戦のKawasaki柳川選手に続き3回目となりますが、13年ぶりのGPは当時に比べ格段の変化がありました。(当たり前ですが・・・)
まず、ワイルドカード参戦チームの待遇は、様々なレギュレーションの縛りは確かに厳しいですが、レース環境的にはかなり改善され、チームのテントも雨風を凌ぐはいうに及ばず大変素晴らしいピット環境となり、フリープラクティスからレース当日の朝のフリープラクティスまではそのテントにピットイン・ピットアウトする仕組みになっていました。もう、どこかのチームのピットの前を借りて走行するようなことはなくなっていたのです。
また、moto2クラスはエンジンが主催者から供給されるというシステムの関係もあると思いますが、毎セッション終了ごとに、ロガーデータをIRTAの担当者に提出する仕組みになっていて、エンジンの使用回転域の状況やそれにまつわるシフターの設定などについてアドバイスを受けることもありました。
また、使用するガソリンもオイルもすべて支給されます。要は出力にかかわる部分は徹底してイコールコンディションになるように管理・運営されているということです。とてもシステマティックでスマートです。
3.総括
様々なレギュレーションによりワイルドカード参戦のチームにとってはハードルが高くなってきているのは事実ですが、そのレギュレーションを遵守し、管理・運営出来ているMotoGPという大きな意味での興行組織の運営は大変素晴らしいと思います。
それぞれのチームに携わる人たちは「仕事」として関わっており、またこの興行の運営にかかわる人たちも「仕事」として働いており、商業的に十分成り立つビジネスモデルとして成立しているということです。
そして、それはMotoGPという興行に対する運営資金を調達できているからこそのものだと思います。
日曜日にレースが終わった後、恐らく月曜日にはチームの車両やその他諸々の荷物も迅速に運搬され、もてぎのあとその週の水曜日にはオーストラリアのフィリップ・アイランドに到着しているのです。恐るべしロジスティクスです。プロフェッショナルな仕事です。
MotoGPと日本のロードレースの現状を比較してどうこう言うのは早計ですが、いろいろな面で学ぶところは大変多いと思いますしこのような機会にトップクラスのレースを経験することで、現状を再確認出来れば得るものは大きいと思います。
*1 IRTA : The International Road Racing Teams Association: MotoGPに参戦するチーム、サプライヤー、スポンサーを統括する組織