私たちレイクラフトは2014年シーズンから、Team KAGAYAMAの全日本ロードレース選手権JSBクラスと鈴鹿8時間耐久レースのエンジンマネージメントとデータレコーディングを請け負っています。
その仕事内容の性格上、耐久レースでは燃費の管理とピット作戦を担当することになります。
今年の鈴鹿8耐レビューでは、昨年コラムアップしていなかったので、まずはじめに2014年を回想したいと思います。
Team KAGAYAMAはチーム結成3年目の2013年に初挑戦の鈴鹿8耐で3位表彰台を獲得するという偉業を成し遂げており、8耐2年目の2014年からチームの仕事に関わることになったレイクラフトにとっては、前年度の成績から上になることは良しとしても決してそれを下回ることは許されないという尋常ではないプレッシャーの中で、(決してチームからプレッシャーを掛けられた訳ではなく、自分たちでその重圧を勝手に感じていただけです、念のため)何としても結果を出さなければならないという覚悟のもとに8耐を迎えることになります。
ライダーは、チームオーナーでもある加賀山就臣選手、NITRO NORIこと芳賀紀行選手、そして常に話題提供に一躍かっているこのチームが選んだ2014年8耐の3人目のライダーは、Moto2クラスの若手ライダー、ドミニク・エガーター選手。
ライディングスタイルも違う、燃費の良しあしも未知数の3人のライダーに最適かつ燃費も成り立つエンジンセッティングを提供できるのか?
限られた時間の中での戦いが始まります。
この年、一番印象的だったのは、ドミニク・エガーター選手でした。
参加できるテストも1回だけ、それもMoto2のレースの合間をぬってのハードスケジュール、初めての鈴鹿のコース、一人での来日(外国人ライダーの多くは、気心の知れたメカニックや友人、家族を連れてくることが多いのですが・・・)、いろいろな意味で少なからず不安なこともあったと思うのですが、走り始めたらそんなことは彼にとってはほんとに些細なことでしかなかったようでした。
Domiはとりあえず走りこむ。時間の許す限り走りこむ。バイクに対してどうのこうのは一切言わずに。そして、走行後はロガーのデータを詳しくチェックし、Yuki(加賀山選手)と自分の走りの違いを確認して、このバイクで自分がどうすれば速く走れるようになるのかを徹底的に研究し次の走行でトライする。その繰り返しで、限られた時間の中でしっかりタイムを更新し、テスト2日目にはチームベストのタイムをたたき出しました。
この順応性、適応能力の高さそして研究熱心な姿勢、彼のこのスタンスには本当に感心しました。日本の若手ライダーにもぜひ見習ってほしいなと痛感しました。
さて、レースウィークに入りいよいよ燃費のセットも大詰めとなるのですが、レースウィークに入ると、ライダーのテンションもアベレージタイムも上がってくるためか、なかなか燃費が改善しにくくなってゆきます。
チームの要望は7回ピット必須。ただ、想定タイムを考慮してシミュレーションすると、7回ピットの8スティントと、8回ピットの9スティントの差がほとんどなくなってゆくのです。
以前こちらのコラムで、8回ピットのリスクをご説明しました。
そのコラムはこちら⇒ http://www.raycraft.jp/column/?p=340/
8回ピットで相応の周回数を走るためには、速いアベレージタイムをキープし続ける必要があると。裏を返せば、アベレージタイムが速ければピットイン1回分のロスをラップタイムで吸収できてしまうということになります。
悩ましい現実です。
燃料を極限まで絞って7回ピットにするのか、走りやすさとアベレージタイムを考慮して8回ピットにするか、作戦を睨んだ燃料セットの攻防は決勝当日の朝のフリー走行まで続きます。
そして決勝日朝フリを終えて8回ピット作戦の公算が高くなってきたところで、降雨の予報が早まりスタート時に降り出すのではないかとの情報が入ります。
雨となれば、アベレージのラップタイムは落ちますから、トータルの周回数が減るのでピット回数を7回、あるいは雨の時間が長くなれば6回で済ますことも可能になってきます。
作戦チームの動きも慌ただしくなり、8回、7回に加え6回ピットの想定も再度検討をはじめ準備を整えてゆきました。
後は走り出してみなければわかりません。
状況の変化に対応できるような体制を整えてスタートを待ちました。
スタート進行が始まる頃から雨が降り出し、グリッドに付いたあたりでその雨脚が強くなりスタート・ディレイとなります。結局スタート時間は1時間5分遅れとなりますが、ゴール時間の午後7時30分は変わらないため、レースタイムは6時間55分に短縮されました。
こうなれば、ピット回数は6回で十分ですし、8回ピット想定の燃料消費量のマップを設定し、ライダーに極端な走りにくさを強いることなく走行してもらえます。
いよいよ大雨の中のスタート。ドミニクは自身初のル・マン式スタートを完璧に決めてホールショットを奪います。
ドミニクのスティントの間に路面は乾き、続く加賀山の走行ではスリックタイヤでスタートするも、途中また雨が降ったためピットインし、ライダーはそのまま連続走行。その後はドミニク⇒芳賀⇒ドミニクと順調にスティントをこなし、最後は加賀山が3位のポジションをキープしてゴール。
見事2年連続の表彰台を獲得しました。
私たちレイクラフトは嬉しいというよりはむしろ無事に3位表彰台を獲得できてほっとしたというのが本音でした。
ホントに長いレースウィークでした。
後日談になりますが、ここで確かな実績を残し一躍脚光を浴びたドミニクは2015年の8耐ではTSRからオファーを受けF.C.C. TSR Honda #778で8耐に参戦することになります。
わずかな時間でしたが、その人なつこいキャラクターがチームを魅了し、尚且つチームに多大な貢献をしたドミニクがほかのチームで走ることになるのは残念な気もしましたが、「この8耐が世界の登竜門的な存在になれば・・・」という加賀山オーナーの思いが実現する形にもなりました。
2015年の8耐では、TSRとはピットも隣だったので、ドミニクはよく顔を見せに来てくれました。 いいヤツです。