どれだけ準備をしてきたか、どれだけ試行錯誤ができたか、そしてどれだけの覚悟が出来ているか、それが結果として試される時が来ました。
テストでは燃料セットはようやく8合目、まだまだレースウィークで何とかしなければならない状況です。
残されたわずかの時間で3人のライダーが7回ピットできる燃費まで行き着かなければなりません。
それに、今年は昨年に引き続き15本というタイヤの本数制限があります。
ピット回数が7回で済めば、2スティントを継続して使用するタイヤは1本で済みますが、8回ピットとなればタイヤ3本を継続使用する必要が出てきます。これでは勝負になりません。7回ピットは必須です。
昨年はスタート時に雨が降った時点でこのタイヤの本数制限がなくなりました。しかし今年は天気予報は晴れ。完全なドライでの走行を前提に7回ピットを達成する燃料セットを出しておかなくてはなりません。
それに、7月上旬の事前テストしか走行していない清成選手は減速の燃料カットなどの盛り込まれた燃料セットで走行していません。
レースウィークでこの燃料セットに初めて乗ることになります。 心配事は山積みです。
ところがここで思わぬうれしい誤算が・・・・
清成選手が思っていた以上に燃費が良かったのです。レースの想定タイムレベルでも燃費はかなり良く、非常に安定しています。
さすがホンダの4タイムス・チャンピオン!!恐るべし、清成龍一。
しかし、驚くのはこれだけではありませんでした。
清成選手の燃費の良さに触発された2人のライダーもこれまでの自分の走りを見直し、「ここだけは絶対に譲れない!」と言っていたその走りのスタイルを大幅に変えて、限られた時間の中で様々な乗り方にトライし、これまで経験したことのない様な燃費をそれぞれ達成して見せたのです。
以前にもこちらのコラムで紹介したと思いますが、ライダーは自分のライディングスタイルがあり、それを大幅に変えることはリスクも高く、相応の技術も必要です。
それをレースウィークの中でやってしまう。やれてしまう。
ワールドクラスのライダーだからこそできる、この自分の追い込み方にしびれるほど感動しました。 言い換えればそのような追い込み方が出来る人がトップクラスを走るライダーの資質なのかもしれません。
年齢やキャリアに関わらず、常に自分に高いハードルを課しそれをクリアし続ける、だからこそ進化し続けている。
このライダーたち、やはりただ者ではありません。
予選では、1回目で加賀山選手がグループ2番手の2分7秒59、TOP10トライアルでも2分7秒99という好タイムを出し、ダンロップタイヤユーザートップの決勝5番グリッドを獲得しました。
私たちレイクラフトもここまでに様々な燃費の改善策を盛り込みました。
そして、その強い武器となったのがエンジン・シミュレータです。
これは、実際の走行データをベースに、燃料セットを替えた場合の想定マップファイルをそのデータに反映させて燃料消費量がどれだけ変わるのかを再生機能の付いたデータロガーで再現し想定燃料とそのマップファイルを机上でシミュレーションするシステムです。
このシミュレーション・システムのおかげで、限られた走行時間で得られたデータをもとに、様々な燃料セットの想定が可能となり燃費改善の対策に大いに役立たせることが出来ました。
シミュレーションで調整を重ねた燃料マップファイルをもとに、各ライダーのラップタイム別の実走の燃料消費量データを把握し作戦のベースデータとします。
決戦前夜、ライダー、メカニック、作戦チーム、サポートチームで最後の打合せ。
走行中にトラブルが発生した時のライダーからチームへの合図の方法の確認や、ピット作業時の注意事項、ガス欠症状が出た時の対処の方法、SCが入った時の対応など、耐久では当たり前の内容の確認なのですがこれは非常に重要な打合せです。
燃料残量がある一定量を下回ったら警告ランプが点滅するようにし、なおかつ燃料消費量から割り出した残り周回数をライダーが確認できるようダッシュモニターに表示するようにもしました。
準備は整いました。