前回、こちらのコラムでスターレーンのパワーシフトのご紹介をしたところ、大変な反響を頂きました。 ありがとうございました。
と同時に、他の商品と比べて”どうなの?”というお問い合わせも多数頂きました。
それは、 「メーカーのKITのECUを使っているのであれば、基本、ON/OFFのスイッチだけでもいいんじゃないの? 失火時間はECUの方で調整できるんだし・・・」というご質問です。
確かにKITのECUではソフトウェア的に失火時間の設定ができる物もあります。 しかし、シフターの肝どころはそこだけではないのです。
ポイントはシフト荷重の調整です。 つまり、シフトレバーを踏み込んで(レーサーシフトの場合)または引き上げて(ストリートシフトの場合)から、失火が始まるタイミングをいつにするかという点です。
ソフト的観点では、ライダーによってシフトレバーの踏み方や踏み込みの強さ、踏んでから失火が始まるタイミングの好み、そして、ハード的観点ではバックステップのリンク形状、車両のミッションの仕様によっても要求荷重は変わります。
この微妙かつ精度の高い要求をON/OFFスイッチだけで許容するのには限界があります。
ON/OFFスイッチはセンサー内部で荷重を認識し、ある所定の荷重になるとスイッチが作動する仕組みですので、その作動荷重はセンサー任せになります。
これだと何が問題になるかというと、例えば、設定されている作動荷重が低い、つまり踏んでから作動するまでの時間が短いと、シフトドラムに適正なプリロードが十分にかかる前に失火が始まってしまい、最悪ギアが入らなくなってしまいます。
逆に設定されている作動荷重が高いと、しっかり踏み込んでからでないとセンサーが作動しませんから、シフトドラムの回転に対して失火のタイミングが遅れてしまうことになり、ギアは入らないか、入ったとしても非常に重たい印象になりますし、ミッションにもやさしくありません。
ここでちょっと、ギアチェンジのしくみについておさらいしておきましょう。
下図はシフト荷重とシフトドラムの回転、ギアチェンジの関係を表したものです
Gear Shift Force はギア荷重のかかり方を示したグラフで、Force Level は失火をスタートさせる閾値です。
Gear Position Volts は、ギアポジションセンサーの出力のグラフで、リニアポテンショメータータイプのセンサーはシームレスにギアポジションの変位を出力できるので、これで、シフトドラムの回転変位がわかります。
ここでまず 1段目のGear Shift Force のグラフを見てください。1から5まで区切ってある部分のうち、1から2にかけてシフトレバーから荷重が掛かっていく状態を示しています。 このとき、Gear Position Volts のグラフに注目してください。 1でフラットな出力が2で少し上昇しているのは、シフトドラムの遊びの部分がなくなって行く過程を示しています。
次に、1段目のGear Shift Force のグラフで、3の領域に入ると荷重はさらに上昇してゆき、設定してあるForce Level(荷重閾値)を超えると失火が始まります。
その時2段目のグラフが横ばいになっているのは、シフトドラムが回ってシフトフォークを押し付けてギアを移動させようとしている状態を示しています。
さらに、4の領域に入りギア荷重のグラフが一旦下降しその後上昇しているのは、ここでシフトドラムが回り、次のギアに入ったことをあらわしています。
話が長くなりましたが、つまりはパワーシフトだと、この Force Level (荷重閾値)を任意にユーザーが設定できるということです。
他のシフター部品もいろいろ検討されているのなら、是非この「シフト荷重の設定」が出来るかどうかをポイントに選定してみてください。