出口選手とは2009年のPLOTでの全日本参戦以来、今年で4年目のお付き合いとなります。
そして、出口選手の耐久レースでの課題はなんと言っても燃費。
この話しをすると出口選手はちょっと、いや、かなり不機嫌になってしまうのですが、耐久レースではこの課題は避けては通れない重要事項です。
私たちレイクラフトも、エンジンのマネージメントや燃費の管理を行っている以上、この点について何とか出口選手の燃費を向上させることが出来ないかと毎年いろいろなアドバイスや、燃料設定のアイディアを練ってきました。
ただ、これは本人の名誉のためにもあらかじめ言っておいたほうが良いと思うのですが、決して出口選手の燃費が極端に悪いわけではないのです。ただ、同じチームで走る選手と比べるといつもちょっとだけ燃費が悪いというだけなのです。
昨年の8耐コラムで「芹沢の28周」と題して、芹沢選手の燃費の良さとその秘密を紹介しました。
(そのコラムはこちらです。≫ http://www.raycraft.jp/column/?p=212 )
燃費の良し悪しはその走り方に大きく依存します。 そして、その走りのスタイルを燃費向上のために変えることはライダーにとっては非常に難しいことです。なぜなら、スロットルの開け方、戻し方、ブレーキの掛け方、ギア使い、車体の動かし方、そのどれもがすべて速く走るための一連の流れになっていて、その一部分だけを別のスタイルにするということはタイムを犠牲にするだけでなく、走りのリズムや感覚を鈍らせてしまうリスクも含んでいるからです。
その一方で、例えば、ダンロップコーナーと130Rの使用ギアを一速高くする、シフトダウンのときのスロットルのあおりを極力少なくするなどの細かいところを積み重ねてゆくと、これだけで数10ccの燃料消費量削減につながってくるというのも事実です。
出口選手はこの”走り方を変える”という作業に果敢に挑戦し燃費を改善する一方、私たちもエンジンマネージメントで燃費の向上を図りました。
今シーズンの燃費改善の秘策は、前回のコラムで前振りした「カットオフ」です。
カットオフとは、の話しをする前に、まず燃費を良くするために何をやるべきか?燃料を薄くする。それは当然ですが、ではどの部分を薄くすれば良いのか? 全開域? 加速の過渡? いいえ、答えは減速区間です。
意外に思われた方は、2年前の8耐コラムで紹介した燃料を絞る話しをぜひご一読ください。
そのコラムは▼こちらです。
http://www.raycraft.jp/column/index.php?s=%BB%F6%C1%B0%A5%C6%A5%B9%A5%C8%CA%D4
減速区間、つまり、スロットルを戻してから次に開けるまでの区間で、いかに燃料を使わないようにするか?
一番簡単なのは燃料を止めて(吹かないようにする)燃えないようにする。これが”フルカット”です。 しかしフルカットには副作用もあります。 それはカットからの復帰時にショックが大きいということです。
カットで燃料を削りたい、でも復帰時にはスムーズな加速を再開したい。 この二つのわがままをかなえるには、カットに様々なバリエーションを持たせるしかありません。
そこで、今年、マイクロテックのM232Rに追加したロジックは、次のようなカットのバリエーションです。
1.気筒別/ギア段別にカットする/しないを選べる。
2.さらに1の条件設定の中で、カットするを選ぶと、次にその条件下で各回転数ごとにカットのスロットル開度の閾値と、そのときの燃料の増減量、さらには点火時期のオフセットも任意に設定できる。
3.また、このカットオフのロジックは、カットからの復帰時、急激にベースマップに戻るのではなく、ベースマップまで徐々に復帰させる機能があり、その復帰までの時間を任意に設定することが出来る。
例を挙げると、1気筒と3気筒の3速以下をカットするに設定し、エンジン回転が5000rpm以上で、開度が2%以下の時に燃料をベースマップの50%にし、ベースマップまでの復帰の時間は50msec。 といったような具合です。 実際にはエンジン回転とスロットル開度の設定、燃料の減らし方,復帰時間はさらに細かく設定しました。
この話しを読んで、「その減速のカットのときのエンプレの設定との絡みはどうなってるの?」と疑問をもたれたアナタ! すごいです。特にGSXR1000とZX10Rはエンジンブレーキコントロールをバリアブルフルクローズタイプにするとカットオフとエンジンブレーキコントロールの折り合いが一般的な汎用ECUではつかなくなります。 そこはここで説明するにはあまりに難しいので、別の機会に主任技師に説明してもらいます。
このカットオフにより、1スティントで27周を確実に走れるように燃料セットし、さらにもうひとつの武器を投入しました。 それは前回のコラムでご紹介した2DのMidi Dashです。
ディスプレイの表示を解説すると、上段左がラップタイム。 下段左がTC(トラクションコントロール)のレベル表示、下段右が選択しているマップの表示、そして中段右に表示しているのが燃料消費量です。
インジェクタの容量を基準にECUが算出している燃料消費量の値をここに表示し、消費量が22リッターを超えると、アラームの赤ランプが点滅してライダーに知らせるという設定にしました。
これで、ライダーは1タンク24リッターに対し今どのくらい燃料を消費しているのかを見て、この数値からあと1周いけるかどうかの判断をすることができますし、逆に想定より燃費が悪い場合でもガス欠という最悪の事態を回避することが出来ます。
ライダーの走り方、燃料のカットオフのロジック、そしてダッシュディスプレイの燃料消費量表示、この3段構えで、燃費に対する不安感を大幅に払拭することが出来ました。
いよいよ8耐レース本番、スタートライダーの芹沢選手は想定の25周にライダー判断で一周プラスの26周、続く第2スティントの出口選手も燃費を考えた走行に徹しディスプレイの燃料消費量の数値を見て自己判断し、なんと想定の27周にプラス1周の28周を走行。 燃費はなんと7.1。 ピットのスタッフもびっくりの好燃費となりました。
出口修、もう誰にも燃費が悪いとは言わせない!