鈴鹿の8耐といえば、7回ピットの8スティント走行がこれまでの定石であった。
2002年にホンダが前人未到の6回ピット作戦を成功させて優勝したことを除いては、7回ピット作戦が当たり前、8回ピットをやったら上位入賞はないというのが定説と思っていた。
ところが2012年の8耐はその定説が大きく揺らいだ。というか、これまでの常識が崩れ大きく転換したターニングポイントの年であったと思う。
確かに事前テストの頃から、「どうもチームOOは8回ピット作戦らしい」とか、「△△のチームは7回ピット作戦はあきらめたらしい・・・」などという噂を耳にし、私はまさか~???と半信半疑だった。
ところがいざ蓋を開けてみると、有力チームのほとんどが8回ピット作戦を行っていたのを見て私はまるで狐につままれたような気がした。 結局、レース中上位に絡んだチームの中で7回ピット作戦を取ったのは、優勝したTSR Hondaと残念ながらリタイアに終わったものの最後まで壮絶な3位争いを展開したEVAトリックスターだけだったのだ。
8回ピット作戦をやらなければならない主な理由はおそらく燃費が成り立たないからだ。
みんないつから燃料を絞ることをやめてしまったのだろう。
燃料を絞らずに8回ピットインをしつつ、それ相応の想定周回数を設定すると、どこにしわ寄せが来るか?
それは、ライダーに速いアベレージタイムのキープを強いることになる。
確かに、YARTもHARCもヨシムラもSERTも驚異的なラップタイムを叩き出している。 しかし残念ながらそのどれもが理由は様々だが悲劇に見舞われている。 その原因が、常に速いアベレージタイムをキープしなければならなかったからだと理由付けてしまうのは早計かもしれないが、ライダーにハードプッシュを強いていたのは間違いないのではないだろうか。
話しはそれるが、今年の自動車のル・マン24時間レースで似たような展開があったのをご存知の方もおられるかもしれない。
優勝候補筆頭のアウディ勢に対し、トヨタ勢も善戦していた。 トヨタの作戦はアウディよりもピットインの回数を増やす代わりにアベレージタイムを上げる作戦。 アウディとトップ争いを展開しスタートから5時間ほど経過した頃、ついにトヨタ車の一台がアウディを抜いて1位に浮上、しかしその直後別のトヨタ車が周回遅れの車両に激突。この事故処理の間のセーフティーカー先導中、ピット作業でトヨタはアウディに逆転され、セーフティカーが抜けた後のレース再開後まもなく、追い上げを図っていたこのトヨタ車も日産の車両と衝突してリタイアという結果になった。
耐久レースは過酷だ。 ライダーの消耗は想像を絶する。 そんな中で速いラップタイムを刻み続けて走行できるライダーは本当にすばらしい。 しかし、ライダーだけにそのような過酷なレースを強いていて良いのだろうか?
耐久レースはチームワークの戦いだ。 1秒でも早くピット作業を行えるように備えるピットクルー、ライダーの体調管理をするスポーツドクターやヘルパー、レース全体を把握し指揮するチーム監督、では燃費の手立てをするエンジニアはどこに?
燃費が成り立たないから8回ピット作戦で。 その代わりライダーの皆さんはハイペースを確実にキープしてくださいね。ではまずいでしょう。 もしそれが本当なら、批判を恐れず言わせてもらえばそれはエンジニアの怠慢だと思う。
こう考えてくると、一見楽そうに見える8回ピット作戦は実は大変リスクの高い作戦と言わざるを得ない。