この世にはその魅力ゆえに人の心を惹きつけて放さないものがある。
そしてそれは往々にしてその魅力ゆえに人の心を惑わしつつ、一筋縄ではいかない気難しさがあったりもする。
ここにSB8RCというバイクがある。
BIMOTA
優美さ、こだわり、他とは一線を画すコンセプトはある意味孤高といってもよい存在だ。
ところが、その美しいバイクがときに気難し屋の手に負えない獣と化すことがある。
今回の御題は手負いのSB8RCを優雅な女豹にもどす作戦のおはなし。
そのバイクが仙台のフクダテクニカに入庫してきたのは、震災後ようやく落ち着きを取り戻しつつあった2011年6月だった。
アルミとカーボンのコンビフレーム、フレーム右側に沿うようにホリゾンタルにレイアウトされたリアショック、パズルのように取り回されたエグゾースト、長いホイールベース、ダイナミックなトリコロールのカラーリング、どれも「奇抜」という単純な言葉だけでは言い表しきれないまさに珍獣!
昆虫チックなフロントカウルがちょっとしたご愛嬌。
で、この珍獣の入庫の理由は始動性の悪さ。
エグゾーストはモトコルセ製が装着されていました。 これまでこちらのコラムで紹介したカスタムでも何度か登場していますが、モトコルセのエグゾーストは大変すばらしいパフォーマンスのエグゾーストのひとつであることは間違いありません。 しかし、ノーマルからエグゾーストを変えたときに避けて通れないのが燃調のセッティング変更。
これまで、何人かのオーナーさんと何軒かのショップさんでの苦心の跡がうかがえる状態でした。
サブコンを取り付けて燃料を調整していたようでしたが、思った通りにはいかなかったようなのです。
そこで、フクダテクニカさんより依頼を頂き、フルコン投入!
2011年発売のマイクロテック製ECU M232Rを装着しました。 ハーネスはノーマルハーネスを一部改造して使用。 ラムダアンプは米製デイトナセンサーズの2チャンネルラムダアンプを使用して燃料のフィードバックコントロールを行いました。
マイクロテックのM232Rは現在レイクラフトいち押しのハイパフォーマンスECUで、基本的な燃料噴射量調整(ギア段毎)、燃料噴射タイミング、点火時期調整(ギア段毎)を制御できることはもちろんのこと、ラムダアンプを使用しての燃料のフィードバックコントロール、dRPMを使ったトラクションコントロール、ローンチコントロール、シフター機能、ピットロード・リミッター機能、燃料消費量カウントなどなど、ストリートユースからレーシングユースまで幅広くかつ高いパフォーマンスの制御が可能なECUです。
懸案の始動性については、燃料だけでなく点火進角のマップも調整しながら、最善のセットを見つけ出すべく地道にセッティング。 始動性は大幅に改善し、もはや始動に関しての不安は一切払拭されました。
続いて、常用領域のセッティング。
ベースマップの無い車両をセッティングするのは至難の業です。
今回は時間と手間はかかりますが、燃料と点火進角のベースマップをノーマルのECUから解析して取り出す方法を選択しました。 この車両のベースエンジンはSUZUKIのTL1000Rですので、そのベースマップデータがあればそれを流用という手もありますが、今回はそれも無かったので、これまた地道にデータ取りを行います。
毎度毎度思うことですが、ECUのセッティングってホントに地道な仕事の積み重ねです。
ベースマップが準備できたところで、シャシーローラーに載せて、データをロガーで計測しながら燃料と進角のマップを最適化してゆきます。
M232Rには、マイクロテックECUの特徴的な機能である「学習機能付きA/Fフィードバックコントロール」という機能が付いていて、これは、設定した空燃比のターゲットに対しマップ値との差分をリアルタイムで燃料補正するものです。
この機能のあるおかげでセッティングの時間は大幅に短縮できますし、この機能は実際の走行時にも大いに活躍してくれます。
というわけで、オーナーさんのもとに帰ったSB8RCがその後どうなったかというと、富士のMVアグスタ走行会で走行し、オーナーさんは始動性、走行性共に大満足されたとの報告を受けました。 以前の状態とは比較にならない好調さで実際ストレートもかなり速かったとか・・・
こういう後日談を伺うと本当に良かったなぁと嬉しくなります。
これまで、M232Rは、SUZUKI GSX-R1000,DUCATI DS1000,SUZUKI GSF1250 Bandit, KAWASAKI ZX-10R,DUCATI 749Rなど様々なタイプの車種でその実績を積み重ねてきましたが、今回BIMOTAでもその性能を実証でき、SB8で燃調や乗り味にお悩みをお持ちのユーザーの皆さんにはきっと朗報となるはずです。 そのようなユーザーの方はぜひフクダテクニカさんにご相談ください。
というわけで、気難し屋の珍獣は見事に優雅な女豹に変身を遂げましたとさ。
どーびんと。
注) 「どーびんと」は山形県置賜地方の方言で、昔話の最後の締めの決まり文句。ちなみに私はかの地の出身です。